「違法でなければ何をやってもいい」起業の天才江副浩正氏と「動機善なりや?私心なかりしか」と自らに問い続けた稲盛和夫氏

稲盛和夫一日一言

大西康之著『起業の天才!江副浩正』を読み終えた。情報化時代を何十年も前に先取りしその傘下にたくさんの起業家を輩出したまさに天才の晩年。一方で昨年たくさんの人に惜しまれながら逝去された稲盛和夫氏。この二人の人生の交差点と二人の人生を導いたそれぞれの原理原則とは。

『起業の天才!』大西康之著

読み終えて深くため息をつく。改めて江副浩正氏という一人の天才がいたことを知った。

  • 日本にこんな天才がいたのか?
  • もし彼がつまずかなければ今の日本にGAFAMに相当する企業があったかも

そんな思いに駆られる。

情報の価値

江副氏は就職情報に端を発して当時世界の誰よりも早く「情報」そのものの価値に気づく。従来の企業家からは虚業と言われながらも次々に情報誌を発刊しニーズに応え事業構造を変えていく。

「就職情報」のリクルートから始まり「住宅情報」の SUUMOも「旅行情報」のじゃらんも「結婚情報」のゼクシィも「女性就職情報」のトラバーユもみんなリクルートのサービスであることを知った。

紙から情報そのものへ

でも彼はここでは止まらない。情報誌から次のステップに向かう。それは情報を紙から解き放つこと。1988年には日米欧でコンピュータセンターを立ち上げてこれをネットワークとして繋ぐことに着手。情報そのものをサービスとするAmazonのAWSの雛形とも考えられる事業を18年も前に始めていた。

当時、私の義弟が「クレイのコンピュータを扱えること」に魅力を感じて勤めていた会社を辞めてリクルートに転職したことを思いだす。情報技術を扱う技術者にとってそれだけの魅力のある会社だった。

第二電電の経緯

江副氏と稲盛和夫氏は第二電電の設立においてその人生の軌跡が交わる。江副氏は第二電電の設立の会合に4人目の企業経営者として参加する。ちなみに最初の3人は京セラの稲盛和夫氏、ウシオ電機の牛尾治朗氏、セコムの飯田亮氏。その後に参加した5人目がソニーの盛田昭夫氏。

しかし、設立された第二電電の取締役の中に江副氏の名前はなかった。その経緯は以下のように記述されている。

原因は稲盛の一言にある。「江副くんは、まだ早いんと違うか」第二電電の株主構成を決める段階で、リクルートを入れることに突然、難色を示した。・・・・・・

稲盛には、稲盛なりの理由があった。それは江副から漂う危うさだ。自分は「電電公社の理不尽な独占を打ち破り、日本の電話料金を安くする」という「大義」のために立ち上がった。牛尾や飯田もそれを応援してくれる。だが江副にはそれだけで終わらない「野心」があり、野心を満足させるためなら手段を問わない「危うさ」がある。

起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートを作った男 大西康之著より

稲盛氏の大義

この稲盛氏のこの「大義」は思いつきや付け焼き刃の言葉ではない。動機善なりや、私心なかりか?は稲盛和夫氏が第二電電の事業を始めるときに思い悩み、自らに問い続けた言葉として当時から社員たちに伝えられている。

第二電電(現KDDI)設立前、約六ヶ月もの間、毎日、どんなに遅く帰っても、たとえ酒を飲んでいようとも、必ずベッドに入る前に、「動機善なりや、私心なかりしか」と自分に問い続けました。通信事業参入の動機が善であり、そこには一切の私心はないことを確認してようやく手を挙げたのです。

稲盛和夫一日一言 2月2日 より

江副氏の真骨頂

第二電電の取締役になれなかった江副浩正氏はこれをきっかけに「部下に任せてアイデアと圧倒的当事者意識を引き出す名手」という経営スタイルから「独断専行」に変わっていく。。。と記述される。

著者の大西康之氏は、その後のリクルートコスモス上場の株式譲渡問題についての記述で「譲渡そのものは厳密に言うとルール違反ではなかった」。「違法でなければ何をやってもいいーまさに江副の真骨頂だったのかもしれない」と記す。

江副くんはまだ早い

稲盛氏は、自分とは全く異なる江副氏の真骨頂=原理原則を嗅ぎ取ったのかもしれない。それが「江副くんはまだ早い」の言葉になった。

この二人がそれぞれ、自ら信じ、それに沿って人生の決断をした根拠=原理原則は、あまりにもかけ離れていた。合うはずもなかったのかもしれない。

南州翁遺訓

ちなみに北康利著の『思い邪なし京セラ創業者 稲盛和夫』 に西郷隆盛から稲盛和夫氏につながる無私の精神についてこんな記述がある。

西郷隆盛の言行録である『南州翁遺訓』のなかに「己を愛するは善からぬことの第一也」という言葉がある。後に稲盛が経営の意思決定をする際、自らの問い変えたという「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉は、故郷の英雄西郷隆盛の無私の精神に照らして、自らの行動に恥ずべきところはないかという問いかけでもあったのだ。

思い邪(よこしま)なし 北 康利著より

2つの選択肢

  • 違法でなければ何をやってもいい」と考えるのか?
  • 動機善なりや、私心なかりしか」と自らに問う道を選ぶのか?

どちらを選択するかで人生は変わる。もしも江副氏という稀有な才能を持った方が「動機善なりや、私心なかりしか」を自らに問う道を選んでいたら。もしも無心の精神で世界をつなぐネットワークの事業ができていたら。。歴史に「if」は禁物だが・・・

継承し伝えるべきもの

私自身は幸い、稲盛氏の経営する企業の中で生きてきた。企業人としての多くの体験もしてきた。体験のベースとなる企業風土の中に「動機善なりや、私心なかりしか」を生きる先輩たちがいた。そこには無私の原理原則が確かに存在していた。

全身を怒りに震わせながらも「お前が正しい!」と絞り出した野武士の如き先輩:『稲盛和夫一日一言』【原理原則に従う】を葛藤しながらも体現する企業活動の現場
企業活動の現場は闘いの場。様々な思いがせめぎ合い衝突している。20年前の大きな納期問題で火中の栗を拾い自ら全ての責任を担った野武士の如き先輩。お客様と仲間のために納期を守る【強烈な願望】と【原理原則に従う】の葛藤の中で彼が出した答えは?:...
稲盛和夫氏が自らに問い続けた【動機善なりや、私心なかりしか】この問いかけに元上司の出した答えと【リーダーシップ】
【動機善なりや、私心なかりしか】第二電電事業への参入の是非を悩んでいた稲盛和夫氏が自らに問い続けた言葉。これはそのまま会社の後進への身の引き締まるような問いかけにもなった。この問いかけに見事に答え切ったある上司の「私心のない判断」に立ち会...

私にはこれを継承し次の世代に伝える責務がある。まず「動機善なりや、私心なかりしか」を自らに問い続ける。無私の精神を身につけて後輩に伝える。西郷隆盛や稲盛和夫氏や多くの先輩たちのように!


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