人類の農業革命について「史上最大の詐欺であり、その犯人は小麦、米、じゃがいもなどの一握りの植物種」であり「人が小麦を栽培化したのではなく人が小麦によって家畜化された」と述べる。多くの「コペルニクス的転回」の経験を与えてくれる知的冒険を楽しませてくれる本。
サピエンス全史について
類人猿の中でたった一つ生き残ったホモ・サピエンスの歴史を3つの革命という視点で棚卸しする。一番最初の認知革命により何の特徴もなかったホモ・サピエンスが、より体の大きなネアンデルタール人を圧倒して生き残る。この認知革命はその後の農業革命や科学革命に影響を与えて続けていく。次々に過去の革命の結果が次の革命に織り込まれて新しい歴史と新しい概念=虚構を形作っていく。
- 認知革命:70,000年前 虚構の獲得
- 農業革命:12,000年前 農耕のもたらした悲劇 +帝国・宗教・貨幣の発明
- 科学革命 : 500年前 無知の自覚と資本主義
目から鱗の落ちる=コペルニクス的転回の楽しみを与えてくれる知的冒険に満ちたワクワクできる本。
農耕革命について
このブログでは農業革命に絞って整理する。農耕を始めて人類は定住生活に移行してそして豊かになった。皆そう信じている。でも、本当に人は豊かになったのか?ユヴァル・ノア・ハラリはそうではないと述べる。これを史上最大の詐欺と論じる。
農耕の前の狩猟採集民とその後の農耕民族の生活についての記述を下記の表で整理してみた。
狩猟採集民 | 農耕民以降現代人まで | |
知識 | 広く深く身の周りの自然について学ぶ生活 | 農作についての知識を学ぶのみで事足りる |
食事 | 狩猟と採集による多様な食物によるバランスの取れた栄養価の高い食生活 | 特定の穀物にカロリーのほとんどを頼った結果ビタミンやミネラルの不足した質的栄養失調の食生活 |
健康状態 | 子供の死亡率は高かったが60歳を超えて80歳まで生きる人も | 集団生活による感染病・農業による無理な姿勢と長時間労働によるヘルニアや関節炎に悩まされる |
飢饉 | 多様性に満ちた食生活によるフェイルセーフで飢饉にはなりにくい | 単一の食物にカロリーのほとんどを依存。その為一旦小麦や稲が不作になると容易に飢饉が発生 |
労働時間 | 猟は3日に1回 採集は一日に2−3時間 | 早朝から深夜まで農作物の世話に追われる日々 |
総人口 | 単位面積当たりの扶養人数は限定的 | 単位面積当たりの扶養可能人数が大幅に増加 |
人類の種としての成功を「DNAの複製回数」で測ると農業革命は成功となる。その成果として単位面積あたりの扶養人数を大きく増やすことで人類の数を増やした。
一方で「一人一人の人間」としての生活を上の表の様に、新しい知識を得る機会、食事、健康状態、労働時間で比べると狩猟採集時代の方がずっと豊かだったのはと問う。中国の農村の少女の事例で、人は一人一人の生活を犠牲にして種としての繁栄を目指すのか?と問うている。
小麦の立場から見た農業革命
ユヴァル・ノア・ハラリの農業革命についての下記の記述は、衝撃でありコペルニクス的転回を与えてくれた。確かに我々は小麦の家畜なのかもしれない。
人類は世界の多くの地域で、朝から晩までほとんど小麦の世話ばかりを焼いて過ごすようになっていた。楽なことではなかった。小麦は非常に手がかかった。岩や石を嫌うので、サピエンスは汗水垂らして畑からそれらを取り除いた。小麦は場所や水や養分を他の植物と分かち合うのを嫌ったので、人々は焼けつく日差しの下、来る日も来る日も延々と草取りに勤しんだ。小麦はよく病気になったので、サピエンスは虫や疫病が発生しないか、いつも油断ができなかった。小麦は、ウサギやイナゴの群れなど、それを好んで餌にする他の生き物に対して無防備だったので、農耕民はたえず目を光らせ、守ってやらなければならなかった。小麦は多くの水を必要としたので、人類は泉や小川から苦労して運び、与えてやった。小麦は養分を貪欲に求めたので、サピエンスは動物の糞便まで集めて、小麦の育つ地面を肥やしてやることを強いられた。
ユヴァル・ノア・ハラリ. サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福
小麦や稲への依存
小麦や稲に依存することで人は2つの不利益を被っている。
- バランスの偏りによる質的栄養失調
- 狩猟採集時代の数百万年、タンパク質、脂肪、糖質に加えて、ビタミン、ミネラルに富んだ質の良いバランスの取れた食事を続けていた。
- 農業革命によりカロリーのほとんどを糖質=炭水化物に依存する偏った食生活してしまったことで糖尿病・成人病など多くの疾病を起こしている。
- 依存している小麦や稲の不作による飢饉のリスク
- 狩猟採集時代の食物は多様性に満ちていてどれかの植物や動物が獲れなくなっても他の食物でこれをカバーできるフェイルセーフ機能を持っていた。
- 一方、農耕が始まるとそのカロリーのほとんどを小麦や稲に依存することになり、人はフェイルセーフ機能を失い、一旦小麦や米が不作となるとすぐに飢饉に陥いることになった。
そういえば、最近読んだ上橋菜穂子さんの「香君」は同じく特定の農作物に依存することの悲劇を物語にしている。これもその名の通り「香り高い」とてもおすすめの本。
家畜からの脱却
私自身はこの10年糖質制限を続けている。炭水化物を摂ることはなく、体調はすこぶる良い。
- 病気にかかりにくい
- 疲れくく日中眠くなることが無くなった
- 毎日溌剌とした元気を感じる
- 若返っている
ことを実感している。小麦や稲の罠は本当にあるのかもしれない。少なくとも私は小麦や稲の家畜、小麦や稲への依存から脱却しようとしている。
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