全身を怒りに震わせながらも「お前が正しい!」と絞り出した野武士の如き先輩:『稲盛和夫一日一言』【原理原則に従う】を葛藤しながらも体現する企業活動の現場

稲盛和夫一日一言

企業活動の現場は闘いの場。様々な思いがせめぎ合い衝突している。20年前の大きな納期問題で火中の栗を拾い自ら全ての責任を担った野武士の如き先輩。お客様と仲間のために納期を守る【強烈な願望】と【原理原則に従う】の葛藤の中で彼が出した答えは?:【】は『稲盛和夫一日一言』より

野武士の如き先輩

その野武士の如き先輩には皆、畏敬の念を抱いていた。「人となり」を以下に示す。

  • 現場からの叩き上げ
  • 基本無口
  • 筋はきっちりと通す
  • 一旦怒ると誰にも止められない!
  • その「怒り」はいつもの人のために!
  • 一番厳しい状況で自ら責任を担うことを選択する
  • 上司でもあっても部下でもあっても自分が納得できないものには容赦しない
  • 怖いけれど人望がある

大納期問題

20年ほど前になる。急激に伸びた需要に生産容量拡大が追いつかずパニック買いが発生した。設備を導入して生産容量を手当てするまでの間、火のつく様なお客様の厳しい納期プッシュが続いた。

代わる代わる毎日のようにお客様が来場した。中には「製品を持って帰るまでは帰らない」と居座るお客様もいた。その対応だけでも手に負いかねた。事態の収拾が必要だった。

対応を買ってでたのがこの野武士先輩。当時の彼の立場は組織を超えた文字通りの事業部の客分。事業部長に「お客様の対応を俺に任してくれんか?君は中を整えてくれ」と申し入れ。怒り狂うお客様の対応を一手に引き受けた。

筋の通った対応

それぞれのお客様からどんなに強い圧力が来てもその対応は筋が通っていた。姿勢は一貫していた。

  1. その場逃れの根拠のない曖昧な回答は一切せず
  2. 事実をありのままに正確にお伝えし
  3. この事態に至ったことを心から謝罪し
  4. 「ベストを尽くせばなんとか実現できるギリギリの納期」を設定して約束した。

進捗管理

その代わりに約束した製品の工程進捗管理は徹底を究めた。部材納期と容量の見極めはITも駆使して可能な限り正確に。計画に対する進捗の点検は非情なまでに緻密だった。

  • 部材納期と設備容量は徹底して見極め
  • 工程計画は当時新しいITなどの知見を外部から導入して計画し
  • 自ら個別の製品の工程表を作成し
  • 自ら個別の製品の工程進捗を毎日確認し
  • 少しでも遅れが出ればその理由を徹底的に確認し
  • ミスや漏れなどの人為的原因があれば大きなカミナリを落とし
  • 即刻でリカバリープランを立て

このようにしてお客様と約束した納期を1件ずつ実現していった。少しずつお客様も勝ち得ていった。

アクシデント

そんなある日、品質保証部門の責任者をしていた私はいつもと違う履歴のロットを見つけた。調べるとそれは、まだ認定していないプロセスを通った評価用ロットだった。これが野武士先輩の約束納期に組み込んであった。

即刻このロットの流動を止めた。

「本当に止めていいんですか!?野武士先輩が納期を約束した対象ロットですよ!」

の、周りからの声。これを振り切って止めた。

誰や!!このロット止めたんは!?

「誰や!!このロット止めたんは!?」

1時間後、事務所に割れ鐘のような野太い声が響いた。あの野武士先輩の声。

シーンとなった事務所の中で皆の目が一斉に私に注いだ。

「私です!」

仕方ない。勇気を振り絞って答えた。

こっちこいや!

「お前か!!!こっちこい!!!」

怒髪天をつく勢いでいきなり胸ぐらを掴まれた。そのまま50m先の会議室に引っ張って行かれた。皆の心配そうな目が視界の隅に消えていった。

何で止めるんや!

「お前!このロットの納期がわかっとんのか!何で止めるんや!」

会議室では1対1。私も必死。

「このロットは認定されていない工程を通ってるんです!何でこんなものが出荷できるんですか!」

・・・・・野武士先輩は私を睨みつけながら唸った・・・・・

お前が正しい

目を剥きながら、肩で息をしながら、怒りに全身を震わせながらも、野武士先輩が絞り出した言葉

【・・・お前が正しい・・・】

この言葉は、死ぬまで忘れない。。。

【原理原則に従う】

会社の根底にある稲盛和夫氏のフィロソフィ。その中に【原理原則に従う】がある。

常に「原理原則」に基づいて判断し、行動しなればならない。「原理原則」に基づくということは、人間社会の道徳、倫理を言われるものを基準として、人間として正しいままに貫いていこういうことだ。人間としての道理に基づいた判断であれば、時間や空間を超えて、どのような状況にあってもそれは受け入れらる

『稲盛和夫一日一言』4月12日より

【原理原則に従う】を体現

読み返すとあたりまえのことを書いている様にも見える。

しかし、実際の企業活動の現場に渦巻くエネルギーの中で【原理原則に従う】ことは生易しいものでなかった。この時の野武士先輩にとっても

  • 自らお客様への納期対応の責任を担い
  • お客様と約束をして
  • 自ら全力で進捗の管理をして

命懸けで守ってきた納期。

この野武士先輩の「納期を守る意志」は純粋で【強烈な願望】だった。しかも願望の動機は、お客様との約束を守り、一緒に働いている仲間を助ける=【利他】。『寝ても覚めても四六時中そのことを考え・・・体を切れば血の代わりに「納期」が流れる』というほどの【強烈な願望】だった。

この【強烈な願望を持つ】と【原理原則に従う】。二つのフィロソフィがせめぎ合う中での【お前が正しい】の判断。

あの日の企業活動の現場に【原理原則に従う】を選び取った野武士が確かに存在した。稲盛和夫氏のフィロソフィはこんな日々の積み上げの中で継承されていた。

【強烈な願望を持つ】

『稲盛和夫一日一言』より【強烈な願望を持つ】を提示する。企業活動の現場はこの火傷するような熱い熱い人間で溢れていた。

願望を成就につなげるためには、並に思ったのではダメだ。生半可なレベルではなく、強烈な願望として、寝ても覚めても四六時中そのことを思い続け、考え抜く。頭のてっぺんからつま先まで全身をその思いでいっぱいにして切れば血の代わりに「思い」が流れる。それほどまでにひたむきに、強く一筋に思うこと。そのことが物事を成就させる原動力となる。

『稲盛和夫一日一言』1月10日分より

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