2300年前に計画・設計・標準化された「ローマ街道」 「ローマ人の物語」の風変わりな27、28巻より

ローマ人の物語
"Reading book, canon 1Ds mark III"

座右の書:ローマ人の物語

塩野七生氏の「ローマ人の物語」も私の「座右の書」の一冊。繰り返し読み、読むたびに新しい気づきを与えてくれる。親父にはギボンの「ローマ帝国衰亡史」は死ぬまでに必ず読め。歴史から学ぶ者は一度はローマに取り組むべき。と言われた。

しかし、私が先に手にしたのは塩野七生氏の「ローマ人の物語」。なるほど!日本史と中国史に耽溺していた私の視野を「ローマ帝国」が大きく広げてくれた。魅力的な「カエサル」とそこまで有名ではない「アッピウス」という二人の天才。自分が天才ではないことを知りつつ、細心の気遣いと長い時間をかけて計画で「ローマ帝国」を完成させたアウグストゥスにも出会う事ができた。

風変わりな2巻:27巻 28巻

「ローマ人の物語」は文庫本で全43巻。なかなかのボリュームになる。5賢帝の時代くらいまでは、何回も読んでいるが、特にキリスト教を国教とした後半は私にとって読み続けることが辛く読み通したのは1回だけ。

その後半と前半の間に風変わりな2巻がある。27と28巻。この二つの巻の主人公は人ではなく道路と水道。それに医療と教育というハードとソフトのインフラストラクチャー。技術とシステムが主人公。タイトルは「すべての道はローマに通ず」

塩野氏の史観:「壁を作る中国民族」と「道路を作るローマ人

27巻の冒頭から塩野七生氏は歴史の大きな構図を見せてくれる。紀元前三世紀に東の中国では「万里の長城」の建設が始まり、西のローマでは「ローマ街道」の建設が始まる。この東の民族と西の民族の比較から27巻は始まる。

根底に「国家規模の大事業とは何か?」の考え方の違いがあったと語る。自国の防御という大事業を「人々の往来を断つ壁を作ることで成し遂げようとした」中国。「人々の往来を促進する道路を作ることで成し遂げようとした」ローマ。考え方の相違はそれぞれの国家のありようを決めていくと説く。

「ローマ街道」の設計と構造・標準化

もの作りを生業にする私にとって、27巻で示されたローマ街道の道路の構造図は衝撃だった。この時代に既に「車道」と「歩道」が明確に分かれている。「車道」に求められる機能に対して水による侵食というリスクを考慮して設計が行われ、その構造に展開されていた。

  1. 両側の歩道は幅3m。中央の車道は幅4m。それぞれの間には排水溝が2本
  2. 車道は対向2車線。中央が一番高く、左右になだらかに弧を描いて低くなっている。
  3. 車道は深さ1.5mまで掘り下げてその底を平らにならし、掘り下げた底から順に
    • 第一層:30cmの厚みの砂利を敷き詰める。水はけの機能を持たせる
    • 第二層:石と砂利と粘土質
    • 第三層:人工的に砕いた小ぶりの石塊
    • 第四層:70cmほどの石塊をパズルのように組み合わせて固定
  4. 川でも谷でも橋をかけて可能な限り水平にまたできる限り真っ直ぐに道を設ける

これが紀元前315年に最初に計画して作られた「アッピア街道」の設計図であり、この道路の構造は標準化され、その後長きにわたって継承されたとのこと。

「ローマ街道」の運用のシステム

ローマ街道の「構造の標準化」に加えて、道路として運用するシステムとして

  1. 道路脇への植樹の禁止。
  2. ローママイルに基づくマイルストーンの設置。 
  3. 道路のメンテナンスをする組織。

もシステムとして標準化されている。1は木の根による侵食というリスクを防ぐため。2は利便性の追求。3は長期に渡って「維持管理」の仕組み。

「ローマ街道」の構造とシステムをまとめると

  1. リスクに対しては
    • 水のリスクに対して、徹底的にその影響を最小化する構造とし
    • 木の根による劣化のリスクに対しては道路脇には木を植えないルールを作り
    • それでも発生する劣化に対してメンテナンスする組織を作り維持管理を行う
  2. 利便性に対しては
    • マイルストーンを設定し
    • できるだけ高低差を避けるために橋をかけ
    • できるだけ曲がり角を避けて真っ直ぐに道を通す

考えてもみてほしい。紀元前315年に計画され・設計され・標準化された事実。日本ではようやく縄文時代が終わり、弥生時代が始まろうとしている時期。そんな時期に明確な目的を持って設計された道路の設置計画が提案され、承認され、敷設される。その標準化された構造とシステムはその後数百年のわたって維持される。

800年後もこの「ローマ街道」が完璧に機能していたという記述があるらしい。800年!

ローマ人:アッピウスからの学び

この紀元前315年の最初のローマ街道はアッピウスにより計画された。「ローマ街道」だけでなく「ローマ式の水道」もこの同じ、アッピウスが創始。ローマ史2000年の歴史の中で「この男の頭の中は一体どうなっているんだろう?」と塩野さんに思わせたのは彼とカエサルの二人のみ。

現代の我々のもの作りも、構想、計画、実行、そして維持管理は重要な仕事のステップ。しかし我々の仕事はこのローマ街道に比べて進化しているだろう?我々はここまで徹底して機能を追求できているだろうか?全てのリスクを洗い出し、その手当てができているだろうか?そして何よりも、メンテナンスによる長期に渡る「維持管理」を仕組みに織り込めているだろうか?

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